
インタビューページ
真っ白なキャンバスに断片的な形態の組み合わせが浮かんでいる。カラフルなそれらはどこか謎めいているが、一方で我々の日常と地続きの親しみやすさも持ち合わせている。この不思議な絵を描く泉依里(いずみ
えり)さんにお話しを伺った。
――泉さんが描いているのは、自分が見た気になる風景を変形・発展させたものだそうですね。
そうですね。モチーフは変形させやすい物を感覚的に選んでいます。昔の作品では誰が見ても分かりやすい物を選んでいましたが、現在は必ずしもそうではありません。
描きたいイメージが何となくあって、それを探し出す感じです。街を歩いている時に出合う事もあるし、ネットで探し出す事もあります。
――漠然とイメージがあるということですが、それは例えば完成形に近いビジュアルイメージですか。
言葉ですね。最近興味を持っているのが本なんですけど、実話じゃなくて物語の一節。例えばお城を表現するのに「こんな古びた、こんなお城で、周りにはこんな物があって」という下りとか。そういうので面白いなって思った時にイメージが浮かびます。
――モチーフを変形させるのはどのように行うのですか。
パーツを集めて変形させる過程と、それらを合体させる過程があります。最初は気になった形を集めてきて、それを何回も描きながら変形させていくんです。描いたパーツはコンピューターに取り込んで、画面上で組み合わせます。これも何度も試行錯誤します。色を決めるのはその後です。そうやって画面上で完璧に作ってしまい、最後にそれを見ながら油絵にするんです。
――何だかコラージュっぽい作り方ですね。今までの
話を聞いているといわゆるペインティングとはポイントが違うように思ったのですが。元々版画をやっていた事と関係があるとは思うんですけど、うーん、何でかな。ただ、版画を今休んでいる理由には、工程がもどかしいっていうのがあるんです。もっと早く作りたい。プラスもっと心地よくとか。そういうのがあったんですよね。
――最後の油絵を描いている段階はどんな感じですか。
単純作業って感じなのかな。そうですね。一番楽しいです。それまでの段階はイーッと考えながらやってるんですけど、描いている時は本当にパッとやれるんで。油絵の段階になると一切変更しないですから、集中して作業人になってるんです。何も考えず、ただ描くだけです。
――コンピューターでそこまで作り込むなら、そのまま
出力すればいいじゃないかという気もしますが。出力とペインティングではやはり全然質感が違うんです。画面上で出来たと思った時、私の頭の中では、漠然とですが、ペインティングの完成形が浮かんでいます。それをひたすら描くという行為でアウトプットするんです。
――塗る快感とかもあるんですか。
ありますね。色と色の境目を作る面白さとか。色を塗る時はマスキングするんですけど。境界線がビシッと決まったらすっごい嬉しいですよ。
――私は泉さんの作品は抽象でも具象でもない、敢えて
言うなら「主観」だと思いました。自分が見たい、面白いと思った部分だけが肥大化してる作品ではないかと。以前の勤務地が六甲アイランドだったんですけど、ああいう場所の工場地帯ってバランスが変に思える瞬間があるんです。橋が妙に大きく見えたり、対岸の山が大きく感じたり。そういうのがすごく気持ちいい。でも、その風景を写真に撮って持って帰った所で、気持ちが覚めてるから面白くないんですよね。絵の画面の中で「ああ、こういう感じ!」っていうのを主観的に作ってるというのはあります。
――今の作風は当分続けるつもりですか。
そうですね。もうちょっと油絵の事を勉強したいです。まだ自分でも思うように出来ていない部分もあるので、その辺を上手くなりたいなと思っています。
取材中、盛んに出てくる「心地よい」という言葉が印象的だった。作者のバイブレーションは作品を経由して見る者に伝わる。泉さんの作品が放つ爽やかな気配もきっとそれに違いない。心地よさが結晶化したアート作品。そういうのもいいじゃないかと思った。
小吹 隆文氏
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