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オンラインアートマガジン
似ても似つかない似ている感覚

 

■泉依里、入谷葉子の二人はまだ20代前半の作家で、版画の作品をつくっている。彼女たちの作品は、版画といっても手法がかなり違っている。いくつかの技法を混合し、モノクロームな世界に微妙な質感をつける泉は、ときおりオレンジなどの印象強い色を使い画面にメリハリをつける。私たちの生活のなかにある物が、部分的に強調されて、デフォルメされていたり、パーツだけが取り出されて¥成されていたりする。

■シルクスクリーンを用いる入谷は、日常の一コマを普段から写真で撮りためている。人が何かをする様子の輪郭をまずべースにしているが、塗り分けられたように、部分々々の色が異なり、版を重ね、大胆に色を使う。そして、細部は複雑な模様になっている。
■日常の風景のなかに埋もれてしまうほど、あたりまえのものとしてある物をモティーフとしている泉。彼女の作品では、まわりをとり囲んでいたものが取り去られ、彼女が気になったある物、あるいはその一部分だけを浮きあがらせている。入谷の作品は、顔や指先など身体から発しているエネルギーの集合体がひとつのイメージをつくっているようだ。
■一見しては、まったく似ても似つかないテイストのものだが、二人の作品にはどこか感覚的に共通するものを感じる。現代の日常生活からもティーフをとっていること。また、人や物から発せられている電波を受信し、その感覚を目に見えるように¥現した、とでもいうのだろうか。地味な沢山の工程を必要とする版画に残る痕跡からも、みている者の視覚に訴えるものがあった。

 

美術ジャーナリスト 原久子氏

 


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